宿らせ恋劇×月の柩 コラボ駄文。



 



こちらは、来様の作品「宿らせ恋劇」のお子様、折本キハル君と楠さんをお借りして、
拙作「月の柩」の哉生と流香を演じてもらったらどうなる?こうなる?的な誰得妄想駄文です。

【読む前の注意!!】
◆原作「宿らせ恋劇」の「更生編」を読了してからの閲覧をお願いします。
◆キャスティングが男同士、書いた奴の手が滑ったので若干BL気味。

↑については、物凄く反省してます…来様、すみません…。

なお、来様のサイトはこちらになります↓
R2√-1様(外部サイトに移動します)




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 ……ここ、物語の中…だよな……?
 部屋のほぼ中央に配置された、背凭れの上部に三日月竜の紋章が彫刻されたアームソファに肘付いて座した折本キハルは、どんよりとした心持ちで深い溜息を吐いた。
 キハルの眼から見ても一目で高価なものだと解る、部屋の中に設えられた調度品の数々───乳白色のアンティークドレッサーや天蓋付きベッドに、青鈍色に金糸をあしらったカーテンや絨毯といった品の良い装飾品に埋め尽くされた、ここは、まるでお姫様の部屋のようで、いくつかの『翻訳』をこなすうちに、いい加減ファンタジーな状況に耐性のついてきたキハルにとっては特段に驚くものではなかったのだが、どうしても納得出来ないことがあった。
 何で、俺がセーラー服なんか着てるんだ、あああ!?


「この物語、ヒロインが武術の使い手でね。かなりハードな戦闘シーンが多いから、アキラちゃんじゃ難しいかなって、判断でさ」
 ほんの数分前。この物語に入る間際。そう言って、この本を差し出してきた今回の『パートナー』の、無意味かつ無駄に振り撒かれる爽やかな笑顔をキハルは思い返している。
「……イギョンの人形を使えばいいだろうが! 何で俺が、お前と……!」
「他にもシャドーレッドが候補には挙がってたみたいだけどね。結局、君にって、上からのご指名なんだよ。僕だって本当は女の子の方がいいけどね」
 キハルの抗議を躱すように、パートナーの男は冗談とも本気ともつかない、いつもの笑いを「あっは☆」と浮かべてウインクをひとつ投げ寄越す。本気でブッ殺そうかと、キハルが殺意を抱いた瞬間だった。
「たまにはヒロイン役もいいじゃない、僕は君となら大歓迎だけどなァ」



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「『気に入らないか』」
 斯くして理不尽なまま、物語は幕を開ける。開け放した窓から、ふわりと舞い込む微風がレースのカーテンを踊らせ、その向こう側に佇む男───今回のキハルの翻訳の『パートナー』・楠春李の姿を、眩いまでの月光の下に浮かび上がらせた。
「『好物のチョコレートは最高のものを用意させたつもりだが』」
 ……シャレ、ならねえだろ。コレ。
 貧血のような軽い目眩をキハルは感じていた。元々、楠は国で一二を争う美丈夫の騎士隊長というキャラクターだったのだから、少し時代がかったような騎士風の格好が様になっているのは否定しない。……それに、流石プレイボーイ設定というべきか。『楠春李』としても『シュンリン・クロンヴァール』としても、キハルの見たことがない表情の男が、そこには在った。
 キハル演じるヒロインは、異世界に引き摺り込まれた武術の腕の立つ女子高校生。
 そして、楠演じるヒーローは、ヒロインを妃とするために異世界に誘拐した男───。


「この物語のヒーローは、ヒロインを妻とするために異世界に誘拐した挙げ句に、ヒロインに彼女のものではない名前を押し付け、虚像を押し付ける。そういう役回りでね」
 ふと、カーテンの向こう側で楠は小首を傾げ、表情を和らげた。物語の科白を中断させ、彼自身の言葉でキハルに語りかける。
「───つまり『嘘』を吐くわけだ。君という存在が揺らぐほどに」
 僕には打って付けの役だ、と。楠が呑み込み、内心で独白するに留めた筈のそれは、声なき言葉となって、かつて『シュンリン』を演じた少年には伝わってしまったようだ。キハルは殴られたかのような表情で瞠目し、目前の男を凝視している。
 そんな役を引き受けて、コイツ大丈夫なのか。だって、コイツは……!
 まるで縫い付けられたかのように身動ぎひとつ、瞬きひとつ出来ずに椅子に座しているキハルに楠は笑みかける。キハルの考えていることなどお見通しだと言わんばかりの、ひやりとした光を湛えた、冷たい眼差しとともに。
「さて、キハル。君はそれでどうするのか。……思ったままに『演じれば』いい」


「ふざけんな…ッ!!」
 楠の言葉を受けてキハルは矢庭に立ち上がり、踏み込んだ。またコイツは『シュンリン』と同じことを繰り返そうとしているのか、と。銀色の月光に象られた楠の、その自嘲めいた横っ面に一撃を叩き込むためにキハルは拳を繰り出した、が───。
「あっは☆ その勢い、その勢い」
 突きの拳は易々と捉えられ、楠は無駄のない動作で身を躱した。いつものように軽く、へらりと笑いながら、だがナイフを突き付けるように狙ってきた楠の肘がキハルの顎下すれすれの位置、喉元を捕らえる。さすが実戦の場数を踏んでいるだけあって、キハルは抵抗どころか、楠の動作のひとつも見切ることができなかった。
「心配は嬉しいよ? でも僕のことより、自分のことじゃないかなあ」
 ぱちん、と気障なウインクとともにキハルを覗き込んでくる楠。「さっ、続きだよ」といつもの調子で言うが早いか、キハルの腕を引いて、その身体を壊れよと言わんばかりの力強さで抱き締めてくる。
「ホラホラ、僕たち夫婦って設定なんだから、こんなことも、それ以上のこともするんだからね? あっ、キスもしなくちゃね」
「………!!!!!!!」
 さらりと怖いことを言ってのける楠に、キハルは全身を粟立たせて、ぞわりと身を震わせた。
 誘拐されてきたヒロインがおとなしく誘拐犯にキスなんかされるわけがあるか───!
 声にならない絶叫に、酸欠の金魚のように口をパクパクしながら、キハルは迫ってくる端正な楠の貌を遠ざけようと押し遣るが、びくともしない。もはやこの状況のすべてがタチの悪い冗談だとしか思えなかった。
「良い仕事にしようじゃないか。ねえ、キハル?」
 ……誰か、たすけてくれえええええ───!
 空虚に開いた窓から覗く天空に、ぽっかりと浮かぶ白銀の満月は静かに見下ろしてくるだけで───誰一人としてキハルの心の絶叫に応える存在はなかった。





2015.11